もうすぐ夜が終わる。
 時計が午前4時を示すころ、スウェーデンはひとりでソファに座っていた。腕を組んだまま、ついうつらうつらと舟を漕ぐ。
 その時、まだ静寂に包まれていた屋外から車が近づいてくる音が聞こえてきて目が覚めた。郊外に位置するこの家の近くには普段あまり車が通らない。こんな時間であればなおさらのことだ。
 案の定車の音はこの家の正面で止まった。ドアが開く音。続いて叫び声。
「おっひゃああああ!」
そこまで聞いてフィンランドが帰ってきたと確信したスウェーデンは、彼を迎えるべく玄関へと向かった。

「な、なななんですかこれ!」
玄関に駆け込んだフィンランドの興奮ぶりに思わず頬がゆるむ。それは目の前で口をパクパクさせている相手にも伝わったようだった。
「これ、全部一晩でやったんですか!?」
「ん」
赤と白のサンタ衣装に身を包んだフィンランドはもう一度玄関を出て、家の外壁を見上げた。
 家全体にイルミネーションが施されていた。壁には青を基調とした電飾が美しい模様を描く。所々に取り付けられたサンタやベルのオーナメントも内側からの電球で発光する仕組みで、柱や手すりの周りを彩っている。さらにその飾り付けは家だけにとどまっておらず、庭の木や柵にまで及んでいた。
 前日、クリスマスイブの晩にフィンランドが家を出たときには、何もなかった。
「すごい……」
「とりあえず、中さ入れ」
見とれてくれているのは本当に嬉しかったが、玄関の扉を開け放したままでは薄着の体が凍えそうになり、声をかける。
 まだ惚けたような顔をしているフィンランドをソファに座らせ、とっておいたシャンパンとグラスを取り出した。
「後にするけ?」
「いえ、なんかびっくりして目冴えちゃいました」
言いながらボトルをとり、自らグラスに注いでしまう。隣に腰を下ろしたスウェーデンも自分の分を注ぎ、互いのグラスを軽くぶつけた。
 キン、と細い音が響く。
「メリークリスマス」
「メリークリスマス」


 ちびちびとシャンパンを飲みながら、たわいもない会話が続いた。主にフィンランドが遂行してきた仕事の話で、それをスウェーデンは時々相づちを挟みながら聞いていた。
 突然、フィンランドが思いついたように言った。
「外のあれ、全部スーさん一人でやったんですか?」
「いんや」
「シー君?」
「ん、あとイギリス」
「イギリスさん?」
「シーランドと、一緒に来だ」
素直に答えたのだが、フィンランドはなぜか少し不満そうな顔をする。よく見ると頬に赤みが差していて、少し酔っているようだった。
「ふーん、そうなんですか」
「なじょした」
「なんでもないです」
いいながらもぷいと横を向き、そのままシャンパンを一気にあおる。
「イギリスさんはいいなぁ、スーさんと一緒にこんな素敵なものが作れて」
「ほだら事言っても」
そもそもフィンランドを驚かせようと思ってやったことなのだから、本人に手伝わせるわけにもいかない。
 そう思って困っていると、
「冗談ですよ」
でも少しうらやましかったのは本当です、と付け足して、肩からスウェーデンに寄りかかった。
 しばらくそのまま何か考えている風であったが、ふいに振り向いて
「スーさん」
「ん?」
「外で飲みませんか?イルミネーション見ながら」
「寒ぃぞ」
「ちょっとだけですから」
それはほとんど有無を言わさぬ口調で、シャンパンを継ぎ足したグラスを持って本当に立ち上がってしまう。仕方がないのでスウェーデンもグラスとコート、そして2人分の手袋を持って後に続いた。

 まだまだ太陽が出る気配の無い庭に、身を寄せ合うように並んで立つ。
「はい、かんぱーい」
「ん」
再びグラスをあわせて中身を飲めば、少しは体も温まってくるような気がした。
「それにしてもすごいですね。これだけの電飾どこに隠してたんですか?」
「裏の物置の奥」
「まだ余ってたりします?」
物置から用意したものの結局使わなかった短めの電飾を持ってくると、フィンランドはそれを持って周囲を見渡した。飾り付けられていない、腰ほどの高さの小さな木に目を留める。
「これ、飾ってもいいですか?」
「ん」
差し出されたグラスを持ってやると、手袋をはめた手でくるくると器用に電飾を巻き付けた。外に余っていたコンセントにプラグをはめると、赤い光がゆっくりと明滅を始める。
「わあ、きれい!」
顔や、吐き出す白い息やまでを赤い光に染めたフィンランドの笑顔が眩しい。グラスを庭の端に出してあるテーブルに置いて後ろに立つと、不意に彼が立ち上がった。そのまま背後から抱き止める体勢になる。
 振り向くと、互いの顔がすぐ近くにあった。
「あはは、なんか色が他のと浮いちゃってますね」
「別にいいんでね?」
答えると、フィンランドは体を後ろに反らし、2人の頬をつけるように伸び上がる。
「やっぱり寒いですね」
「ん」
 フィンランドの手がスウェーデンの黒いコートの袖に通した腕をとり、自分の体を抱きしめるような体勢で固定する。赤く揺らめく光を見つめながらじっとしていれば、互いの体温が厚い布を通って緩やかに伝わってきた。
「でもこうしていれば少し暖かいです」
「んだない」
コートの黒にもサンタ装束の赤にも、降り積もる雪の白がよく映えた。








(メリークリスマスということで。)
(ところでもんしろの頭の中では、イギリスはシーランドの兄ちゃん=長男(笑)的な存在です)

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