スウェーデンは、できるだけ音を立てないように気を付けて玄関の扉を開けた。
 上司から突然回ってきた仕事が思いの外長引いて、こんなに深夜までかかってしまった。今日は一日家にいたはずのフィンランドに連絡する時間すらとれなかっのは初めての事だ。自分の上司も国使いが荒いものだと、疲労した頭で思わずにはいられない。
 当然彼は寝ているだろうと思った。冷蔵庫には幸い昨日作りすぎたシチューが鍋ごと入ったままであったから夕食を作る必要すらなかったはずだし、なによりも普段ならとっくに2人とも夢の中にいる時刻だ。
 せめて自分のたてた音で起こさないようにとリビングに入る。そこで足が止まった。
 フィンランドがいた。ソファーで横になったまま眠っていた。
 机にはグラスと空になったワインの瓶。膝を抱えるように丸まって、実に器用に眠っている。
 待っていてくれたのかと申し訳なく思い、同時に嬉しかった。顔にかかって邪魔そうな髪をどけて耳にかけてやるとその寝顔がよく見える。
 今までこんなにまじまじとその顔を見つめた事はなかった。あまり見ていると相手がおびえてしまうし、理由を問われても返す答を持っていない。
「……めんげ」
口から素直な感想を漏らすと、相手が小さく身じろぎした。次いで目がうっすらと開き、その不確か視線が自分をとらえる。
「…スーさん、帰ってたんですね」
言葉の後半はほとんど音にならず、再び眠りに落ちようとした。思わず肩に手をおいてそれを引き留める。
「ベッドさ行ってねろ。俺もシャワー浴びたらすぐに行ぐから」
そういうとフィンランドは再びゆるゆると目を開けてろれつの回らない言葉を発した。
「眠いんです」
「んだから早くベッドさ」
「嫌です眠いんです」
会話が成立していない。酔っているせいか寝ぼけているせいか定かではないが、とにかく寝室につれていこうとしてその体を抱えあげた。
「わ」
驚いた声があがるものの、抵抗らしい抵抗は見せない。どうせ眠くてそんな気力もないのだろう。
 ベッドにその体を横たえる。立ち去ろうとしたら、起きあがった体で腕を捕まれた。
「なじょした」
「スーさん」
強く腕を引かれて膝をつく。目の前にさっきまで見つめていた顔があった。
 次の瞬間に顔が近づいて、離れる。唇に柔らかい感触が残った。反応できないでいると腕をつかんでいた手が離れて後頭部へと延びる。頭を強く引き寄せられて、今度こそはっきりと唇同士が押しつけられた。
「フィ、ン」
思わず窘めようとそのまま声を出すが、結果容易に口の中への舌の侵入を許した。ほのかに甘いそれに自分の舌を絡め取られて、強く吸われる。翻弄される感覚に思わず体を引こうとするが、後頭部に添えられた手がそれを阻んだ。
 いよいよ苦しくなってきた頃にようやく唇が解放された。知らず息が上がっていて、顔が驚くほど熱くなっているのが自分でもわかる。
 フィンランドはといえばそんなスウェーデンの様子をじっと見つめていた。そのいつになく真剣な視線に戸惑う。
「スーさん」
「ん?」
「今のスーさん、すごくえろいですよ」
突然出てきた一言に言葉を失う。何がおもしろいのか、眠いだろうにフィンランドはふにゃりと微笑んだ。
「早くシャワー浴びてきてください。一緒に寝たいです」
ちゃんと待ってますから。
 その言葉をどうとっていいのかわからないまま頷くともう一度満足そうに笑って、体を横たえ、そのまま目を閉じてしまった。すぐに寝息が聞こえてくる。
 何となく拍子抜けしながらも、先ほどよりも随分幸せそうな寝顔を眺めていたら別にどうでもいいような気になって、言われたとおりとりあえずシャワーを浴びようと寝室を出た。








(芬典っぽい芬典を書いてみたかったのです)
(スーさんが戻ってきたらフィンがしっかり起きて待ってるといい)

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