おいイギリス!おまえでいいからちょっと聞いてくれよ。
いやそんなこと言わないでさ。な?お兄さん一生のお願い!いやマジで!ホントお願い!
え、ちょっと待……おい、この前おまえが作ったスコーン、あれすごいうまかったぞ!捨ててねーって!お兄さんまたあれ食いたいなー
!
この前さ、スウェーデンの家に行ったんだよ。上司から書類渡してくれって頼まれちゃってさ。
まあ大した内容でもないのに国の建物とか使うこともないだろ、って事で、あいつの家に直接行ってきたんだ。ああ、家に行くのは初め
てだったな。
まあ普通の家だったよ。郊外の空気がいい場所にあってな。門の周りには花とか植えちゃってさ。 まあそれはいい、別に全然いい。問
題はここからなんだ。
俺は家のチャイムを押したわけよ。そしたら中から「はーい」って声が聞こえて、扉が開いて出てきたのはフィンランド。まああいつら
同居中だから別に不自然じゃないわな。
でもさ、フィンランドの着てたポロシャツにさ、でっかく「I LOVE NY」って書いてあるのよ。ちなみにLOVEは赤いハート
マーク。
まあいいんだけどね。お兄さんに人の趣味やらセンスやらをとやかく言う権利はないしさ。別にいいんだけどね。
でも突然後ろから「あ、フランスなのです!」とか声が聞こえて振り返った時はビビったね。案の定シーランドだったんだけどさ。何故
かそいつまでいつもの水兵服じゃなくて「I LOVE NY」のポロシャツ着てたんだよ。
な?びっくりするだろ?でもあいつら2人とも硬直してる俺になんか全然気づかないで、「シー君そのお花どうしたの?」「あっちで見
つけたです!」みたいな平和な会話を繰り広げてるわけね。そしてフィンランドが後ろを振り返って、「スーさーん!フランスさん来まし
たよー!」って呼ぶのよ。
それで足音が聞こえてきて、この時点で俺はものすごく嫌な予感がしたね。おまえもするだろ?
ああそうだ、出てきたスウェーデンまで「I LOVE NY」だったんだよ!何がしたいんだよ!ペアルックか!今時ペアルックか!
そんなにニューヨークが好きならみんなでアメリカと結婚しちまえよ!
なんていうかこの時点で俺の脳内キャパみたいなのはほとんど一杯でさ、もうここは渡すもんだけ渡してさっさと帰ろうと思ったんだよ
。でも俺が何か言う前にスウェーデンの奴が「上がってけ」って言いながら俺のほうすっごい睨んでくるの!怖いの!逆らえねーの!わか
るだろお前も!
それで結局部屋に通されてさ、紅茶飲んだんだよ。3人のI LOVE NYに囲まれて。
ちょっとして、フィンランドが「あ、お茶菓子とってきますねー」って言って席を立って、そしたらスウェーデンの奴も無言で付いて行
くんだ。さらにシーランドまで「シー君も手伝うですー!」って3人そろってキッチンに消えて行きやがった。茶菓子用意するのに何人必
要なんだ?え?
なんか扉の向こうからキャッキャ聞こえてきちゃって、結局出てきたのは皿に乗った普通のクッキー。ああ、おいしくいただくましたと
も。
それから?いやまあ何事も無かったさ。本来の用件だった書類渡して、互いに簡単に国の近況話して、世間話して。いろいろ聞かされた
ぞ?3人で遊園地に行った話とか3人でピクニックに言った話とか3人でゲームした話とか。
帰り際にはご丁寧に玄関まで3人揃って見送ってくれて、「また来てくださいねー!」って手なんか振られちゃったよ。それでお兄さん
はとぼとぼ帰ってきたのさ。
これで話は終わり。聞いてくれてありがとな。いやどうしても誰かに聞いてもらいたかったんだよ!独りで抱えてたらなんかしあわせビ
ームに焼き殺されそうだったの!
え、スコーン?誰が食うかあんな凶器。
(ペアルックか書きたかっただけともいいます)
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